実録風小説「ザ・購買エージェントへの道(起業編)    第六章 あかん!どんどん資本金が減っていく
実録風小説「ザ・購買エージェントへの道(起業編)    第六章 あかん!どんどん資本金が減っていく

第六章 あかん!どんどん資本金が減っていく

 

2011年9月11日。話は半年ほど前に遡る。恵比寿のワンルーム、安っぽい小型テレビの中に映し出されたNYのWBCに航空機が突っ込む光景を圭太はまるで映画のワンシーンのように眺めていた。これがリアルな事件と認識したのはそれから数秒後。

 

―え、えらいことやがな!-

 

この自爆テロが直接わが身に影響するとは思えなかったものの、その時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。それから数日後、勤務先である恵比寿ガーデンプレイスのエントランスに長い緑のバリケードが張られることになる。圭太は洗練されたオフィスビルに張られた緑の物々しくもチープなプラスチック製のバリケードにとても違和感を覚えた。

 

それからずっと、そのオフィスビルで働くビジネスマンたちは一人残らず出勤時には仁王立ちするガードマンのセキュリティチェックを受けずにはオフィスどころかエレベーターにも乗れないことになったのだ。その年度は既に下期に入り、上期の予算未達のGAPを埋めるべく営業部隊のヘッドであった圭太はかなり追い込まれており、世界情勢から目の前のシゴトに至るまで彼の心は全体的に閉塞感が漂っていた。

 

―俺は何のために高額報酬を捨てて前職を辞めたのか。俺は何をするために今ここにいるのか。そもそも一体何のために生きているのか。ここでこうしたままで本当にいいのかー

 

そんなことが頭をよぎる時間が多くなった。命の大切さは、生命保険業界に足を踏み入れてからというもの重々理解していたはずだったが、9.11という大事件が自分の活き方を再確認するきっかけになったようだ。

 

そしてそれから半年後、圭太は東京のマーケティング会社に別れを告げた。

 

丁度そのマーケティング会社ではグループ上げて社運を賭けた共通ポイント事業のプロジェクトが進行しており、4月には大きな組織変更があるという噂もあった。もしそのプロジェクトに関わることがあったら途中で投げ出すのも申し訳ないという想いもあった。

 

―僕は今でもその時の部下に対して申し訳ないことをしたと思っている。なぜなら上司としての役目を全うしたとは到底思えないから。知識や人脈を得た僕にとってはとても有意義な1年だった反面、僕が彼らに提供できたことがあまりにも少ない。でもこの借りは、自分の事業で成功することで返すんだと自分に言い聞かせ、僕は本来やりたかった本業への専念を決めたー

(ただそんな彼らへの負い目とは裏腹に、わずか1年だけの役立たずの上司にも関わらず保険契約をしてくれたり、今でも慕って連絡をくれる部下がいることはとても嬉しく有難いことです)

 

そして京都。

 

2002年に入り、圭太は自分の人脈を通じて勢力的にビジネスモデルの提案を行い、出資を募った。前職の仲間や、かねてから付き合いのあった税理士や広告代理店の社長。学生時代からの盟友でもあるお世話になったマーケティング会社の社長も快く応じてくれた。

 

圭太はまたここでも借りを作ったと思った。どうやらビジネスのスタートアップは、過去の信頼関係から仮を作ることから始まるようだ。恩返しはいつになるかはわからないけれど、きっと必ずさせてもらうと心に誓った。

 

これで設立時に資本金1000万円で始めた会社は増資により資本金が2500万円になり、オフィスも8坪から30坪ほどのスペースに引っ越すことにした。何も実績のない会社が良いロケーションのオフィスを貸してくれることは難しかったがなんとか交渉してそれなりの場所に移転し、それなりの設備も整えることができた。資本金を新しい仲間を向かえる準備に使ったのだ。

 

一般的には保険代理店として独立するなら、まずは自分が保険販売で稼ぐことから始めるのがセオリーだ。でも圭太は敢えてそれを封印し、自分の時間的リソースをリクルートに集中することに決めた。

 

―僕が描いたビジネスモデルは、あくまで全国展開規模拡大モデル。その為には、1社専属ではなく、乗合という環境の方がより顧客貢献できるという信念の元、その想いをできるだけたくさんの保険プランナーに伝えて、いち早く規模を拡大することだ-

 

まずは1年で20人の組織に。そこまできたら売上からのロイヤリティと保険会社からのボーナスでなんとか損益分岐は超えるはず。そんな見立てでリクルート活動を優先したのだ。そしてそれから数か月後のある日のこと・・・

 

「堀井さん、このままでいくと今月で会社のお金無くなりますよ。どうします?」

 

スタートアップ時から管理業務を任せていた事務スタッフが見せた預金通帳には数千円しか残高が無かった。

 

―続く―

 

コラム:経営者の健康5段階説とは

 

生存欲求→安全欲求→愛と所属の欲求→承認欲求→自己実現欲求

 

ご存じの方も多いと思いますが、これは マズローの5段階欲求説 。人間は下位の欲求を満たさないと上位欲求には移行できないと言われています。これをシゴトに当てはめると・・・

 

①生きるために働く→②安心を求めて働く→③仲間と協調協力して働く→④周りから認められて働く→⑤自分の価値観に基づいて働く

 

となります。

 

こうして観ると、やはりイイ会社は高次の欲求に基づき働いている人の比率が高いのではないでしょうか(⑤は敢えて自分の価値観と表現しましたが企業的にはこの自分の価値観と起業の目指すものを一致させようとしているのが「パーパス経営」です)

 

では、これを 経営者が持つべき資本(健康)の優先順位 に置き換えるとどうなるでしょう。私はこれを勝手に経営者の健康5段階説と名付けました(笑)

 

経営者が経営者でい続け、更にその企業を成長させていくために必要な経営者が持つべき資本をマズローの様に5段階で表しますと。

 

まず 「身体(が資本)」 →身体の健康なくして仕事はできません。よって経営者は身体のコンディションを常に整え、シャープにしておく必要があるのです。健全な経営は健全な身体に宿る。

 

身体の次は 「お金」 。精神ではありません。会社は資金を常に潤沢な状況にしておく必要があるということです。中小企業では資金繰りが最も大事な社長のシゴトになり、締日になれば社長が銀行を駆けずり回っている会社がたくさんあります。本来の仕事ではないですが、これがなければ事業が立ち行かなくなるのが現実です。気持ちが落ち着かず、冷静に本来の事業そのものを考えることができません。企業が生きていくための生存欲求と言ってもいいでしょう。

 

そして3番目が 「精神」 。心ですね。経営者はお金が潤沢に在って初めて精神が安定するもの。もちろん経営者の悩みはお金だけではありません。その他にも社内人事やマーケティングや競合のことなど次から次へと課題が降り注ぎます。その課題を冷静に素早く意思決定するためにも常に心を健康な状態に保つ必要があるのです。その為にも経営者はたまにはバカンスに出かけたり、瞑想を日常に取入れたり、専属のカウンセラーやコーチをつける等常に精神状態を整えることに投資するのです。

 

4番目は 「社会的健康」 。つまり社会貢献や地域貢献です。もちろん企業活動そのものも直接的な社会貢献ですが、社長自身が身体的にも精神的にも健康で、充分なお金が自社に在って始めて間接的な寄付やボランティアやCSR等社会に還元しようという余裕が生まれてくるのです。

 

そして5番目の最も高次な欲求は 「魂」レベルの健康 です。神羅万象、目に見えないもの、運や縁に感謝し、ご先祖や神に感謝し、人間性そのものを高めていきたくなるということですね。この想いや行動が更に運を引き寄せていくことになるのです。

 

まとめると、①身体的健康→②経済的(お金)健康→③精神的健康→④社会的健康→⑤霊的健康、 となります。

 

知ってか知らずかはさておき、世の中の成功し続ける経営者、卓越した業績を上げる経営者たちは、この経営者としての健康レベルに気付き、より早く高次なステップでこの階段を掛け上がっていくような気がするのですがいかがでしょうか。

 

実は今、21世紀になりマズローの5段階欲求も下位から順に上がっていくのではなく、いきなり自己実現欲求で生きる人がどんどん出だしたという話しです。私が発明した(笑)「経営者の健康5段階説」も同様で、下位から順に上がるのではなく、最初から最上位の想いをベースに行動する人がこれからは「成倖する経営者」になるのかもしれません。

 

*上記コンテンツは2017年に上梓したものを多少手直しし、再掲しています

 

 

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