圭太は保険業界に足を踏み入れて25年が経過していた。32歳でカタカナ生保に転職し、フルコミ(完全歩合)の保険営業を始め、10年をその組織で過ごした。その間、営業職、営業所長職、支社長職とキャリアを積み、それなりの結果を残して起業した。そして42歳で1人起業した会社は今では300名を超える組織になった。
そもそも圭太はなぜ起業したのか。
それは購買エージェントという職業を日本に根付かせたいと思ったからだ。
「顧客のニーズを汲み取り、常に顧客視点にたった商品やサービスを提供するエージェントは一家に一人、一社に一人の無くてはならない存在に成り得る。」
本気でそう思い、数千万円の年収を捨ててまで始めた会社で、圭太はその目的に向かって我武者羅に15年間経営をしてきたつもりだ。
「俺はその目的は果たせているのだろうか。完成まではいかなくてもその存在に近づけているのだろうか。」
圭太の想いとは裏腹に2016年の5月に保険業法が改正され、購買代理とか公正中立という言葉は使えなくなった。法的には保険募集人は保険会社の販売代理人であって顧客の代理人ではないという見解からだ。では購買エージェントに未来はあるのだろうか。圭太は自問自答した。
「購買代理という呼称が使えなくなったとしてもやる事は変わるはずもなく、購買代理の精神と行動に変わりはない。購買エージェントの存在意義、今の日本の社会での使命とかやりがいとは何かを考えたら、まずやるべきことは一般消費者への教育や。まだまだ日本はマネーリテラシー(金融知識)が低い。貯蓄から投資へと言うスローガンが叫ばれて久しいけれど、マネーリテラシーの低さが思うように進んでいない大きな理由の一つなんや。これは保険も同じ。あまりにも情報格差があり過ぎる。
もちろん我々が知識のない人たちに分かりやすい説明をするのは当然や。けれど、これからは一般消費者のマネーリテラシーを高めることも我々の使命にせなあかん。金融、保険商品の意義や目的、自己責任原則や商品価値を啓蒙する教育者としての立ち位置を我々が担うんや。これからは、子供の時、学生の時から我々が教えることも必要になる。そういう地道な活動が我々の認知度を徐々に徐々に上げていくはずや。
それからフィンテック。既にAIが金融業界を変えようとしている。杓子定規のヒアリングから必要保証額を算出し、それに合った保険提案をするだけなら既にロボットが代替えしてしまう時代や。顕在化されたニーズに対応するんやなくて、潜在化されているニーズをいかに引き出すか、どう気づいてもらうか、恐らくこれも間もなく人工知能はやってしまうやろ。それでもヒューマンタッチなコミュニケーションスキルをブラッシュアップし続けて、本人も気づいていないニーズを絵にして、形にして、数値化し、その課題を解決する商品を固有の利点で提案することで我々は今以上に感動を生む存在になれる。ここはロボットが勝つか、コミュニケーションスキルを研ぎ澄ませた人間が勝つかの勝負所やな。まだまだ白旗あげるのは早すぎる。
それよりまだ今はそのAIの力を借りながら最終的にはリアルな人に繋げるツールとしての連携する仕組みを組織に取り込むことで伸びる余地は充分ある。テクノロジーは強い味方になるはずや。
それから更に我々は保険やお金だけやない、人生そのものとか企業経営そのものに関わって影響を与えるくらいの付加価値がいる。もっともっと勉強せなあかん。ロボットにはできない複合的な価値提供ができる存在になるんや。つまり保険ビジネスだけでない総合生活支援、総合企業支援ができる存在や。それは、一般消費者なら、少子高齢化の日本であれば、健康というキーワードに誰がどう関わっていくか。
そこに我々保険事業者が関わっていくことや。いかに健康寿命を延ばすか。健康寿命が伸びれば、もちろんその人はハッピーやし、保険会社もハッピーやし、何より社会保障制度が破たんしかかってる日本もハッピーや。ここに我々も関与していく価値があるはずや。人間の幸せの価値観は人それぞれやけど、基本第一は健康、それから家族や仲間(人間関係)、生きがい、お金、このバランスやと思う。この4つを満たすために我々はFPの知識や商品提案だけやなく、予防医療の知識やネットワーク、コミュニティ、教育の場を提供し、安心を提供するだけやなく、夢の実現を支援する存在になっていかなあかん。
企業に対しても、保証とか資産運用とか節税の提案をするだけなら、もはや差別化にならん。経営者の関心ごとである、売上げを上げること、いかに集客するか、いかに販売スキルを上げるか、いかに人材採用や財務支援や経費削減ができるか、そういう総合的な経営支援ができる、経営者と一緒に経営戦略を考えて支援できる存在とその存在をフォローする組織を作ること本気で考えていかなあかん。それが、 我々が目指す真の「ザ・購買エージェント」の姿や 。」
これから保険はどこから買うか。誰から加入するのか。ネット。通販。銀行。郵便局。携帯ショップ。家電量販店。保険ショップ。保険会社営業職員。IFA(独立系FP)。
あらゆるところで保険が買える時代になった今、どこがその覇権を握るのか。その答えを出すのはまだ早計かもしれない。けれども、今も、そして未来も、顧客は常に自分に関心を持って欲しい、理解してもらいと思っているはずだ。そのスタンスを決して失わず、顧客本位の姿勢を貫く、「ザ・購買エージェント志向」は一般消費者にとって不変のニーズではないだろうか。
圭太は32歳で保険業界に入り、42歳で起業し、今58歳になった。人生の折り返しはとっくの昔に過ぎている。
ところで人生のピークは何歳でくるのだろう。もちろん人によって異なるだろう。未だ圭太は人生のピークを迎えた時期を特定できないままでいた。いや、まだこれから人生のピークがくると思っているのかもしれない。残された人生の1年1年が貴重だ。やりたいこと、求められていること、やらねばならないことはまだまだある。
ある社員が圭太に尋ねた。
「社長、社長はいつまでこの会社を経営されるつもりですか?」
「そやな・・・もう人生は100年の時代や。普通の人が100歳まで生きるのが当たり前なら、俺の健康寿命の目標は120歳やな。ほならまだまだ折り返しにも来てない若造やがな。自分がこれからの活き方のモデルになって、僕らがお客さんをサポートしていこうとしている理想の姿に、まずは自分がならなあかん。自分がどこまで輝きを放ち続けるか。うん、死ぬまで輝きを放ち続けること、しいて言えばそれが目標かな。俺の人生のピークはまだまだこれからやで!あれ?全然質問の答えになってないな(笑)。」
圭太は一人大声で笑った。
終わり
皆さん、長きにわたりお読みくださりありがとうございました。世の中のすべての営業パーソン、すべてのFP、すべての保険事業者が購買エージェント志向で顧客貢献していくことを心から願いつつ、ペンを置きたいと思います。
堀井 計
平成29年1月19日に金融庁より発信された「顧客本位の業務運営に関する原則」。
これは、金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則を定めたものです。また、本原則では、「金融事業者」という用語を特に定義せず、「顧客本位の業務運営を目指す金融事業者において幅広く採択されることを期待する。」とあり、すなわちこれは保険代理店、保険募集人もこの金融事業者の範疇であるということです。
それが7原則にまとめられているのですが、それを抜粋してみますと(以下金融事業者を保険代理店に読み替えて表記)
原則1.顧客本位の業務運営に係る方針の策定・公表等
(保険代理店は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。)
原則2.顧客の最善の利益の追求
(保険代理店は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。保険代理店は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。)
原則3.利益相反の適切な管理
(保険代理店は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把握し、利益相反の可能性がある場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。保険代理店は、そのための具体的な対応方針をあらかじめ策定すべきである。)
原則4.手数料等の明確化
(保険代理店は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。 )
原則5.重要な情報の分かりやすい提供
(保険代理店は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。)
原則6.顧客にふさわしいサービスの提供
(保険代理店は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。)
原則7.従業員に対する適切な動機づけの枠組み等
(保険代理店は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。)
さて、これを読んで保険代理店関係者の方々はどのように感じられたでしょうか。金融事業者を保険代理店と読み替えただけで、当事者意識を持ちやすいと思いませんか?
これから金融事業者である保険代理店、保険募集人には、すべての行動において「それって顧客本位ですか?」と言う問いかけが突き付けられることになります。7つの原則に対して個社ごとに方針を明文化し、もしできなければそのできない理由を説明しなければならないのです(遵守さもなくば説明)
これはプリンシプルベース(規範ベース)ではありますが、これを遵守できない金融事業者は消費者から選ばれず、やがて排除されていくという考え方です。一見厳しいイメージですが、「ザ・購買エージェント」の概念を法的に明文化すると、まさにこのような表現になるのかもしれません。 どうやら「購買エージェント」は時代の要請のようですね。
*上記コンテンツは2017年に上梓したものを多少手直しし、再掲しています
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