「朝倉さん。」
「あ、今田社長、こんにちは。」
今田は圭太が在籍していたパシフィック生命の先輩であり、保険業界に来店型ショップという新しい業態を生み出し、全国展開で急成長している保険代理店の経営者だ。
「朝倉さん、今度ちょっと時間作ってよ」
「あ、はい、いいですよ。何かありました?」
「ちょっとこの前保険会社のコンベンションで山下さんと話しててさ」
「あ、ライフクリエイトの」
「そうそう」
ライフクリエイトの山下社長も業界内ではトップセールスとして一目置かれる存在だった。また、いわゆる優績代理店の経営者は様々な保険会社が主催するコンベンションや表彰式で顔を合わすようになり、そのまま意気投合して仲良くなるケースも多かったのだ。
「で、乗合代理店も数も増えてきたし、規模の大きいところも出てきたし、クリアしないといけない課題も結構共通するよねってことになってさ。そろそろ業界団体があったほうがいいんじゃないかという話になったんだよ」
「な、なるほど・・」
「で、一度有志で集まろうってことで今色んな人に声かけてるんだよ。だから朝倉さんも来てよ」
「は、はい。わかりました。じゃあまたその時は声かけてください」
圭太は、同意こそしたもののあまり気乗りはしなかった。別に主旨に異論があったわけではない。素直に良いことだと思った。
ただ自分の会社の仕事だけでも手一杯なこと、そして生来人見知りで、異業種交流会のような面識のない人達とのコミュニケーションが苦手だったからだ。ただ業界の大先輩からの声掛けに断ることも出来ず、その場を取り繕うように返事をしたに過ぎなかった。
そして後日その会合は東京で行われ、圭太も参加することになる。
更にそれから数日後に件の業界の重鎮がわざわざ京都にまで表敬訪問され、正式にその会の発起人になってほしいと懇願されることになった。
「もう逃げられそうにないな・・」
圭太は腹をくくってその要請を受けることにした。
―頼まれごとは試されごと―
ここでも最終的にはその活き方に従うことにしたのだ。任意団体として発足した保険代理店協議会。3名の発起人のうちの1人として副理事長職を拝命した。
圭太はその就任あいさつで、
「1社専属ではなく、乗合代理店が業界の主流になる日が早晩きます。なぜならお客様の満足度が高いからです。我々が1社専属の保険会社を退社し、敢えて乗合代理店として独立した原点もまたそこにあります。そしてこの顧客満足の高さをエネルギーとして我々は大きくなってきました。これからまだまだその規模は大きくなるでしょう。今までは巨大な保険会社に、吹けば飛ぶようなちっぽけな代理店が寄りかかり、また支配される関係でした。だからこそ私は一般の流通業のように顧客に最も近い川下(代理店)がもっと大きくなり、その声を力にしながら川上(メーカー)にも影響力を及ぼす「保険流通維新」の必要性を感じています。
業務を今以上に効率化し、顧客接点にかける時間を増やすことで更に我々は成長していけるんです。そのためにも、ノウハウを共有し、更に個社個社では解決しえない課題をこの協議会にて議論し、保険会社さんにも交渉し、場合によっては監督官庁にも相談しながら、より健全な、乗合代理店という新しい業界の成長に寄与できる団体作りの一助になればと思っています。微力ではありますが少しでもお役に立てるよう頑張りたいと思います。」
やると決めてからの圭太のスピーチには力強さがあった。
ただ、圭太を含め我が世の春を謳歌する乗合代理店の経営者たちは、まだこの時には数年先に起こる保険業法改正という大きな難局を想像すらしていなかった。
―続く―
唐突ですが、業界団体というものはその業界に必要なものなのでしょうか。既にその業界に入った時点で団体があれば、当たり前にあるものとして捉えられるでしょう。無ければ、その必要性は自分の仕事上の課題に直面しなければ必要性を認識することはないかもしれません。
因みに、ネットで「業界団体」を検索してますと、
「業界団体が作られる主な目的は、業界として利害が共通する課題に対して、企業が共同して、個々の企業の名前を表に出さずに対応することにある。最も重要な活動は、国や州などの産業政策や税制改正に関しての情報収集や行政機関・政治家への意見表明である。他には、選挙(政党)への支援活動、政治献金の取りまとめ、労使交渉の取りまとめ、業界自主規制ルールの策定、業界統計の作成、標準化、広報活動などを業務としている。」
とあります。
要するに個社個社は競合関係にあっても、業界として利害が共通するものは一緒になって解決していきましょう、そのためには国や監督官庁、政治家などの大きな意思決定機関への情報収集や意見表明が必要なので、そこは協調連携したほうが得策だよね、ということです。
これは、例えば京都の観光業者が世界中から地元に観光客を集めることは、京都府の為でもあり、もちろん事業者も潤い、その結果税収が増えて住民にも還元されるというメリットがあるので、行政や同業者を巻き込み、皆で一緒に企画やイベントを考え、まずは数を増やしましょう。その後どこに泊まるかは個社ごとの努力ですよね、と考えればわかりやすいのではないでしょうか。
また、新しい業界や業態ができたとき、その商品やサービスが画期的なもので既存事業者を脅かす可能性がある場合、その既得権益を死守するために様々な力が働く可能性があります。その場合には、生まれたばかりのベンチャー企業は資本力も交渉力も人的リソースも限られているので、立ち上げ当初から業界団体を作り、「私たちはこの新しい業界を健全に運営し、顧客の利便性向上のために貢献していきます」的な宣言をしたうえでその業界そのものをまずは根付かせるために各社が連携し、ロビー活動をすることが必要になります。最近とみに注目されているフィンテックやブロックチェーンの世界も既に協会が設立されています。
因みにフィンテック協会のホームページには、
<目的>
本協会は、国内外の関連諸団体、関係省庁等との情報交換や連携・協力のための活動を通じて、オープンイノベーションを促進させ、Fintech市場の活性化および世界の金融業界における日本のプレゼンス向上に貢献することを目的としています。
<具体的な活動内容>
関係省庁(金融庁、経済産業省、財務省等)や関係団体(全国銀行協会等)との連携及び意見交換(ガイドライン等)
国内外の関連諸団体等との情報交換や連携
協力のための活動(FinTech Meetup)
ビジネス機会創出のための各種活動
FinTechに関わる調査研究、及び情報発信
と謳われており、スタート時点で形を整えられているようです。
我々乗合保険代理店が生まれ、急成長しだしたのは20年くらい前。もし当時既に協会が設立され、精力的に活動をしていればひょっとすれば今とは少し違う風景が展開されていたかもしれません。
もちろん手遅れでも何でもなく、むしろこれからの活動は未来に向けて乗合保険代理店の業界を今以上に健全な業界にするために不可欠だと思いますので、共感される保険代理店経営者は是非参画していただきたいものです。
*上記コンテンツは2017年に上梓したものを多少手直しし、再掲しています
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