実録風小説!ザ・購買エージェントへの道(転職編)第四章 飛込み営業の達人に弟子入り
実録風小説!ザ・購買エージェントへの道(転職編)第四章 飛込み営業の達人に弟子入り

第四章 飛び込み営業の達人に弟子入り

「えっ、生命保険?パシフィックて聞いたから出てきたけどまさか保険の営業とは思わんかったわ。今忙しいし、興味もないからいらんわ!」

 

圭太は親会社である電気メーカーのブランド力を生かして電気店を中心に法人への飛込み営業を始め、既に2週間が経過しようとしていた。毎日50件程度の飛込みを繰り返していたがことごとく断られ、無論成約はゼロ。10数件の電気店だけがパンフレットを受け取ってくれた程度だった。

 

「ふぅー、これで今日30件目か。又30秒ももたんかったなぁ・・このやり方も考えんとあかんかもしれんなぁ・・・今日はこのくらいにして会社に戻って作戦練り直すか。」

時計を見れば5時を少し回ろうとしていた。

とその時、今圭太が断られたばかりの会社に一人の営業マンとおぼしき男が入口に立っていた。歳の頃なら20歳後半か、おそらく圭太より歳下のごく平凡などこにでもいる営業マンだ。その男性営業マンは入るのを躊躇しているのか少し入口付近をうろうろしたかと思うと、自動ドアのボタンを押し静かに入っていった。圭太は彼が何の営業かはわからなかったが、ほんの1〜2分前に断られたばかりの会社に入っていく営業マンの姿を興味津津で観察していた。

 

「可愛そうに彼も俺のようにあの無愛想な社長に30秒ももたずに一蹴されて出てくるんやろなぁ・・」

 

と、かすかに聞こえてくる声に聞き耳を立てた。

 

「こんにちは!日本ゼロックスの鳥山と申します。本日は複写機のご案内に参りました。」

 

「コピー機の営業か。やっぱり初回訪問やな。よし、時間測ったろ。」

 

圭太は自分と同じ境遇の営業マンに共感したいのかネガティブな安心感を得たい気分で時間を測った。ところが30秒どころか3分たっても彼は出てこなかった。結局出てきたのは5分を少しすぎてからだった。

 

「ありがとうございました。ではまた来週の今ごろご依頼いただきました資料を持参いたしますので!失礼いたします。」

 

彼は入ったとき同様、静かに出てきたかと思うと手帳を取り出しメモをすると、足早に歩き出した。圭太は以外な展開に驚きを隠せないまま彼の後を追いかけていた。そして、彼は次の会社にも、前回のように少し訪問前に時間を置いてから飛込んでいき、今度は約3分経過して出てきて、また手帳を取り出した。

 

圭太はここ2週間、約500件の飛込み訪問で3分以上話が出来たことなど一度も無かった。それがこの一見どこにでもいそうな営業マンが連続して3分以上会話を続けて出てくる光景を目の当たりにし、思わず無意識に話し掛けていた。

 

「あのー・・すいません。ちょっとだけお伺いしてもよろしいでしょうか?あ、私はパシフィック生命の朝倉と申します。生命保険の営業をしております。」

 

「・・・・」

 

「実は今、失礼とは知りながらあなたが訪問されたところを2件拝見させていただきました。1件目は私が訪問してすぐに断られた電気店です。その後、あなたが入られて5分以上会話をされて出てこられたので、興味を持って今の会社までついてきてしまいました。そしたら、また3分以上出てこられなくて・・ど、どうして飛込み営業の初対面なのにそんなに話をしてもらえるのですか?今コピー機はどこも興味がある商品なんでしょうか?」

 

鳥山は見知らぬ男からの突然の質問に最初は少し困惑したが、圭太の切実な質問に快く口を開いた。

 

「なんや、そうやったんか。ライバル会社の営業マンが文句言いにきたかと思ってちょっと引いてしもたわ。保険の営業やて?初めてどれくらい経つの?」

 

「はい、まだ3ヶ月とちょっとです。飛込み始めたのは2週間前くらいです。」

 

「そうか、飛込みやって2週間か、俺もその頃は毎日何百件飛び込んでも30秒と持たへんかったわ!まさに千に三つくらいの確率で当て物みたいな営業やっとったなぁ。」

 

「い、今は違うんですか?」

 

「そやな、今はちょっと違うかな。」

 

「ど、どう違うんですか!」

 

圭太はプライドなどかなぐり捨てて噛み付くように聞いていた。

 

「おいおい、えらい勢いやなー。そんな調子で迫ったらお客さんやったらいきなり引かれるで。えーっと、朝倉さん・・やったっけ。朝倉さんは飛込み訪問は何の為にやってるの?」

 

「もちろん契約いただく為ですけど。」

 

「そやろな。でも1回で契約もらえるなんて土台無理やろ。僕は飛込みやるときは自分がマーケッター、つまり市場調査役やと思ってやってるんや。だから訪問するのは情報収集が目的で、ニーズがあればいかに次回訪問につなげるかがポイントや。

 

だから訪問した会社ではなるべく長い時間会話して色んなこと社長さんから聴きだして記録に残す。3分会話できたら結構色んな情報入ってくるし、次の訪問チャンスが生まれるもんや!」

 

「なるほど!それで会社からでたあと、手帳にメモしたはったんですね。でもなぜそんなに長いこと会話できるんですか?」

 

「うん、えー質問やね。ひょっとしたら朝倉君は飛び込んだらいきなり自分が言いたい事一方的に話してるんちゃうか?」

 

「はい、いかに他の保険会社と違うかを理解してもらえるように熱意を込めて伝えてます。」

 

「そら、お客さんがたまたま保険に興味ない限り聞こうとされんのは無理ないわな。朝倉君も逆の立場なら仕事忙しいときに全く興味ない話一方的にしゃべりまくられたらイヤやろ。初対面で話続けられるのはお客さんの仕事の話しかないよ。」

 

「仕事の話?」

 

「そや。仕事の話や。会社の経営者なら自分のしている仕事や扱ってる商品、競合や業界の情報、お客さんからみた視点とかはいつも関心あるはずや。要はお客さんをまず理解することから問いかけるんや。」

 

「例えばどんなことですか?」

 

「どこまで言わすねん。しゃーないなー」

 

鳥山は少し閉口しながらも圭太の熱意に負け、日頃のノウハウを話し始めた。

 

「いきなり飛込まんとその前に必ずその会社の周りとか、入ったら社内よー観察するんや。社名見たり、積まれてるパッキンやショーウィンドウ見たら扱ってる商品判るやろ。駐車場の営業車の年式とかパソコンのモデルで会社の勢いが判断できる。入口入ってタイムカードや社内の内線電話番号表見たら社員数や組織がわかる。なっ、その会社や社長に関心持って観察したら色んな仮説が思い浮かぶはずや。」

 

「それで、入口でうろうろしてから飛込まれてたんですね!それで入ってからは?」

 

「うろうろて人聞き悪いやっちゃなー。まずは当り前やけど挨拶して、訪問の目的告げる。それから自分の商品について一つ二つ質問するんや。」

 

「ぼ、僕もそれくらいのことはやってるんですが・・」

 

「断られるやろ。」

 

「はい。」

 

「で、次はどーしてる?」

 

「めげずに伝えたいことを何とか聞いてもらおうと必死で食い下がりますが無駄に終わってしまうことがほとんどです。」

 

「そこで一旦引き下がるんや。すぐに失礼しますってな。それでお客さんは安心される。それでそのあとに『一つだけ教えていただいていいでしょうか?』て問いかけるんや。教えてくださいてお願いしたら一つくらいやったら教えたろと思ってくださるお客さんは結構いるもんや。で問題はこのあとや。この後の問いかけで訪問前にサーベイ、つまり観察したことからお客さんに関する質問投げかける。

さっきの電気屋さんはショーウィンドゥに新商品のビデオカメラ飾ったったやろ。見たか?そこで、『あのビデオカメラは今P社が一番力を入れてる商品ですよね。実は先ほど近くの電気店の店頭でもキャンペーンをされていました。POP(販促用の説明書き)に3台限りと書いてあったので価格を確認すると20%オフでした。御社でもキャンペーンをされているんでしょうか?』て問い掛けてみたんや。」

 

「自分のことで頭が一杯でショーウィンドゥの中まで見てませんでした・・」

 

「そしたら社長さんはやっぱり競合のことが気になるらしくて、他の商品のことやキャンペーンの内容なんかも色々向こうから話されてくる。そこで競合のPOPの出来映えに触れてみたらこれにも興味を持たれてな。当社のコピー機ならもっと訴求力のあるPOPが出来ますよって提案したら今度提案書みてくださるってことにつながったんや。」

「す、すごいです!」

 

「へへ、そんなに感心されたら照れるがな。要は営業先は彼女と一緒や。まずこっちから好きになる。好きになったら色んなこと興味わくやろ。そしたら彼女が喜びそうなこと問い掛けてみる。人間ちゅうもんは自分に興味を持ってくれる人に好感持ってくれるもんや。逆に朝倉君もいきなり自慢話しゃべりまくられたらイヤやろ。」

 

「初回訪問で30秒から3分会話続けられるようになってからやな。次回訪問に繋がる確立が10倍くらいあがって、お陰さまで今は5年連続でトップセールスや。ところで、朝倉君はお客さんに何を売ってるの?」

 

「はっ?さっきも言いましたよね。生命保険ですけど。」

 

圭太は少しムッとした口調で答えた。

 

「それはさっき聞いたからわかってるよ。僕は何を売ってると思う?」

 

「コピー機でしょ。」

 

「いや、違う。僕は単にコピー機を売ってるんやない。僕が売ってるのは業務改善と営業支援の提案や。それで企業のお役に立とうとしてるんや。僕が提案するコピー機でその企業や社員の皆さんがより効率的に業務を行え仕事が楽になり、綺麗で見やすいPOP作成などで売上に貢献できる、それが僕の仕事や。君もただ単に保険売ってるわけじゃないはずや!」

 

圭太は偶然出あった一見なんの変哲も無いコピー機の営業マンの仕事に対する姿勢、営業スキルが自分とはあまりにもかけ離れたレベルであることに愕然としながら思わず口走っていた。

 

「師匠!ぼ、僕を弟子にしてください!お願いします!」

 

それから間もなくして、飛込み営業の成果が急速にあがり始めた。

 

「師匠!僕が売っているのは単なる保険商品やないです。僕はお客さんが一番大切にされている家族や会社に対する愛情を、想いを形に変えさせてもろてます。それぞれのお客さんの人生に悔いを残さんように安心を提案させてもろてます!」

 

鳥山は押しかけてきた弟子の自信満々の一言に満面の笑みで応えた。

 

-続く-

 

参考コラム

最早面談前の最低限のマナー:事前リサーチと訪問サーベイ(観察)

 

事前リサーチとは訪問先が事前にわかっている場合に、色んな媒体(帝国データやホームページ、紹介者や前任担当者など)から顧客の情報を把握しておくこと。

訪問サーベイは訪問前に外観や社内などを視覚や聴覚などを使って顧客に関する情報を把握する行為。

 

高関与ビジネスパーソンたる購買エージェントの最低条件はまず顧客に関心を持つことですね。顧客の仕事、顧客のマーケティング、顧客の競合、顧客の自己実現欲求、顧客の大切な人。

 

あなたは顧客をどこまで理解してますか?

 

*上記コンテンツは2009年に上梓したものを再掲しています。

 

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