「もしもし、パシフィック生命の朝倉です。元グローバルスポーツにいた朝倉です。ええ先月退職した・・ちょっと聞いて欲しい話があるのでお会いできませんか?」
「ああっ、朝倉さん?ご無沙汰ですね。話って保険の話でしょ?」
「は、はい。保険の話というか御社のリスクマネジメントの話をさせていただければと思い連絡させていただきました。」
「リスクマネジメント?なんかよくわかんない言葉だけど朝倉さんには色々世話になったんだから覚悟してますよ。いつでも結構ですから来てください。」
「ありがとうございます・・・では早速明日にでも御社まで行かせていただきます。」
圭太は最初のターゲットを前職の仕入先と決めていた。仕入先のメーカーや問屋にとって大手流通業のバイヤーの存在は絶大だった。その過去の優位な立場を最大限に活かそうという戦略だった。
「いやー、朝倉さんには本当にお世話になりましたから。朝倉さんが商品を買ってくれなかったら今頃うちは倒産してますよ。でも、保険屋に転職すると聞いたときは驚きましたけどね。完全歩合制なんでしょ?よく思い切りましたねぇ。」
「はい。私も私なりに色々人生を考えまして、決断をしたんです。いつまでもサラリーマンでいるよりも一国一城の主のような立場でどこまでできるか試してみたくなりまして。それに保険と一口に言いましても私がこれからやろうと思っていますのは今までの保険の売り方とは全く異なりまして、オーダーメイで・・・・」
圭太は自分の思いを一方的に話しまくり、興奮してどれくらいの時間が経っているのかも分からなかった。遮るように社長が、
「あ、朝倉さん。申し訳ないけどこれから出かけなきゃなんないですよ。保険は月掛金5万円くらいならいいから、なんか良いのを持ってきてくれたら入りますから。なるべくお金の貯まるので作ってきてよ。」
「はっ、でも社長うちはオーダーメイドで設計するのがコンセプトですから、これから色々社長のことをお伺いして・・・」
「コンセプト?いや、いーからいーから。朝倉さん僕も時間もないし、心配しなくてもちゃんと入りますから。まぁがんばってくださいよ。じゃまた電話してきて下さい。」
「は、はい。ありがとうございました・・・」
一週間後、圭太はこの社長から約束どおり月掛け金5万円の契約をいただいた。そして、同じような元仕入先も同じような展開で何件か契約をいただいた。 圭太は契約をいただいたことは素直にうれしかったが、なにかが違うと感じていた。しかし、とにかく新契約を獲得しなければ収入に結びつかないというプレッシャーからか問題は後回しにして今はアポイントを取ることに集中した。
(そろそろ友達にでも声を掛けるか・・・)
圭太は次の見込み客を友人、知人に絞った。研修で教わった「まずベースマーケット(元々関係があり、お会いできそうな見込顧客のこと)を攻めよ」という定石に則った戦略である。
「もしもし、坂本?あっ、俺、朝倉。元気?」
「まぁぼちぼちやけど」
「案内届いてる?」
「案内て転職の?」
「そうそう、それで一度話し聞いてもらおと思って電話したんやけどどーかな?」
「話て保険の話やろ・・」
「そう。保険と言っても今までの保険とちょっと違うから。ライフナビゲーターって言って・・・・・・・・・・・」
またまた延々と続く一方的な圭太の話を坂本はたまらず遮った。
「圭太。お前が必死なんはよー分かった。分かったけど、悪いけど俺は保険は親戚のおばちゃんから義理で入ってるし、そう簡単に辞められへん。それにお前やからはっきり言うけど友達から儲けよとしてるみたいでなんか気分悪いわ。今までどおりの関係で付き合おうや。」
「・・・・・」
その後、圭太は何人もの友人、知人から電話口や目前で同じような言葉をぶつけられた。「保険屋」という存在がいかに世間で疎まれているかを身にしみて感じ、元仕入先という「義理」のみが契約をいただけた理由と言うことに失望感を感じていた。
周りからの「自己否定」の連続で今までにない屈辱感と自信喪失感を味わいながら圭太は、力を振り絞りベースマーケットを一旦諦め、「飛び込み」という営業スタイルに活路を見出そうとしていた。
続く
専門用語、業界用語に要注意!
リスクマネジメント(危機管理)、キャッシュバリュー(解約返戻金)、キャッシュフロー表(収支計算表)など保険業界やFPでは当り前に使う用語も一般のお客様には聞きなれない言葉ですよね。せっかく覚えた用語ですからプロらしく専門用語を駆使すれば信頼が得られると思う営業パーソンは以外に多いかもしれません。
でも好業績の営業パーソンは専門用語を知っていてもお客様の前で使うことはほとんどしません。
相手の立場に立てばよりわかりやすい言葉で説明してあげることが親切というものですね。
まず「相手に近づいてあげること」「まず相手を理解してあげること」は高関与営業パーソンたる購買エージェントのマナーと心得ましょう!
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